One on One 35th note「Side by Side」ネタバレ感想

期間:2024/2/8(木)〜2/18(日)

劇場:赤坂RED/THEATER

 

あらすじ(公式サイトより)

ピンチはチャンス?冗談じゃない

ピンチはピンチ チャンスはチャンス

大逆転を起こせるか? ただ それだけ

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 伏線という名の謎が明かされてあー!って膝を打つ瞬間が楽しい作品なので、まだご覧になっていない方は今すぐ配信を買ってください。しかし今日の21時まで販売なんですが果たして21時までに書き終わるのか?(追記)無理だったのでhttp://oneonone.shop-pro.jp/?pid=179392748: DVDを、買おう!!!こちらの記事は2/21から書いており、配信でお話を聞いたあとに加筆修正していますがしきれていない部分で時空の歪みが発生します。

 もうとにかく楽しかった!!一言にするとこれに尽きます。泰江和明さんのご出演を機に『コムロ探偵事務所シリーズ』と「One on One」に初めて足を運んだのですが、とても特別な作品になりました。脚本が当て書きであること、どころかセリフの数々が作・演出・音楽の浅井さんと泰江さんとのディスカッションにより生まれたということがあり、好きな俳優のとても歓迎できない現状がたくさん反映された作品。泰江さん演じるオオバヤシくんが懊悩する様を苦しいようなもどかしいような思いで見つつ、でも周りの力を借りて立ち直るオオバヤシくんの姿や「今ここに選んで立っているのが楽しくて仕方ない」と言うようなエネルギー溢れる泰江さんの姿に救われたり元気をもらったりしていました。わたしは泰江和明さんという人のオタクなのでこの感情は切っても切り離せないのですが、そういうことを考えず、あるいは知らずに観てもかなり楽しめる作品かと思います。何せお話の作りが丁寧で、物語を膨らませるための要素や仕掛けが随所に散りばめられていて、上手い。脚本としての完成度が秀でて高いのにセットと衣装で作り込まれた世界観、卓越した技術を持っている人しかいないキャスト、それらを補強する演出と演奏。キャッチーな音楽。ここは好みの問題かと思うのですが小説でいう地の文に当たる「説明」が大抵の場合、曲で進行するのもよかったです。歌詞に説明する・される登場人物の感情が組み込まれるのも単調にならずにかなり見やすい。説明台詞ってその舞台に通っていると正直話が聞けなくなったり飽きちゃったりこともあるんですが、おかげで最後までずっと全編楽しく観劇できました。以下キャストやキャラクターについてもう少し踏み込んだ感想で、ネタバレしかありません。

 

 

コムロ演:藤原祐規さん)

 偏屈な探偵で重度の花粉症。多分ツンデレ

 藤原さんは極上文学シリーズの「高瀬舟山椒大夫」で拝見して以来、2度目でした。あの作品9年前らしい。怖。高瀬舟の方で演じられていた庄兵衛の、自身が情熱を持てないことへの嘆き*1を濁流のように畳み掛けられて震撼したのがそれでも記憶に新しいので今回かなり楽しみにしていました。

「不器用な仏頂面」の変化が大袈裟でないのに顕著。アケチにワダくんが自分を心配していると聞かされたときの表情の緩み方、痛いところを突かれたときの気まずそうな雰囲気、オオバヤシくんに2作品目がめちゃくちゃ面白かったと言われたときの嬉しそうな顔、慰めようとする際の力の籠った眼差しなど、ベースは変わらないのにそれでもコムロさんの感情がひしひしと伝わるようで、きっと事務所の面々はコムロ先生のこういう不器用さも愛しいのだろうなと思います。地味に「じゃあな、アケチ」「じゃあね、ロクちゃん」と、アケチの返答をしっかりと待ってから電話を切るところが好きでした。この「じゃあな、アケチ」の声色に込められている親愛も塩梅が絶妙で、聞くのが楽しみだったセリフの一つです。歌が歌として上手くて声が良いのはもちろんですが、歌い方が情緒的でセリフとして伝わってくるのが素敵。特にこの作品はキャストの全員がそういう歌い方をされているように聞こえました。「失敗する深呼吸」の苦さが特に好きで、印象に残っています。あとビヨーン!とした動きが面白すぎる。取り調べを受けている最中のコムロさんの顔も何度見ても面白くて結局最後まで笑ってしまいました。自分がマエクラさんやワダくん、コグレさんに与えられることに慣れてしまって彼らをある意味軽んじていたと気付かされたときの痛みや罪悪感を覚えた表情も印象的でした。オオバヤシくんはそんなコムロさんにとって身近な「初めて薬を飲んで世界が変わった(変わっている)人」だったのかもしれないな。今思いました。

 

ワダ(演:新正俊さん)

 探偵の助手をする傍らで小説を執筆している。目指せワトソン。

 新さんはお名前を度々拝見していたものの機会がなく、初めましてでした。声質と滑舌が良いので台詞が聞きやすく、視野が広くて頭の良い方なんだなという印象。何かアクシデントが起きたときにも瞬時に対応する冷静さがありながらお芝居に乗る感情が鮮やかですごかった。コムロ先生と2人のシーンは毎度痛みを感じるほどでした。

 愛らしく純粋に見える反面、言いたいことははっきりと口にする強さとマエクラさんに「ワダくんなんかイキイキしてるね」と言われた際に見せる悪戯っぽい笑顔が印象的。初日に「ここにいたら皆さんに甘えてしまうから」で泣いて顔を伏せてしまったオオバヤシくんがその顔を上げるまで待ってから「甘えちゃ、ダメなのかな」と言っていたのが特に記憶に残っています。

 ワダくんは受け手であるイメージが強かったように思います。そこも助手で、小説家っぽい。あと観てもないのにアレなんですがなるほどソシャゲの顔の見えない主人公にも向いているだろうなと思いました。個性の強いキャラクターたちに引けを取らない癖の強さと、確固たる意志、そして高い順応力。マエクラさんがフェイク動画を作ったと気づいたときにやんわりと本人にだけ気づいていることを伝える辺りがかなりツボ。恐らくマエクラさんはワダくんが気づいてもその場で暴くようなことはしないだろうと信用してコムロ先生がカップラーメンを食べようとするあの映像を使ったのでは……と思っています。「悪趣味な右腕さんが一体何を考えているのか」についても結局聞いてなさそうだし。そういう関係性もこの作品の好きなところの一つです。踏み込みすぎない心地よさがある。

 物語の終盤で機嫌の悪いコムロ先生と対峙する場面のワダくんの感情が公演によって毎回違っていて、楽しみなシーンのひとつでした。涙が出ちゃってたり(個人的には悲しみの涙というよりぶつけようのない感情が溢れたように見えました)千秋楽ではワダくんからそれまでにないくらいに怒を強めに感じたりと、その場で生まれた感情をぶつけているのが好きでした。

 

マエクラ(演:田村良太さん)

 コムロ探偵の右腕。趣味は盗聴とハッキングらしいけどあんまり初対面の人にそれ言わない方がいいと思う。

 田村さんも初めましての役者さんでした。ふとした表情や仕草、台詞回しになんだか異様*2に色気を感じた。お歌が堪能で特に高音が素敵に響いて聞こえます。田村さんがアフターライブの気まぐれな風のソロパートでめちゃくちゃアレンジを入れながら歌ってくれたのですがそのアレンジが入る度に泰江さんが声をあげて喜んで、それを皆さんでニコニコ見てるのがかわいかった。

 飄々としているように見えて胸の内にアツいものを秘めているようなキャラクターが好きなのでマエクラさん、とてもすごくかなりツボでした。「お前が本気だったことなんてあるのか?」と言われたときの「えー、コムロちゃんにもそう見えてた……」*3からの「ねえ僕の本気どうだった?」がまあ堪らなくて……。前作のFace to Faceをわたしは配信で一度見たきりなので詳細には覚えていないんですが(1作目も間に合わなくて見れず)、彼らの出会い、エピソードゼロは恐らくセバタさんのすり替えた茶碗を作ったのがマエクラさんで、ただ「才があるから」という理由で流されるがままに動いてきた彼がコムロ先生に「これを作ったのは誰だ」と怒鳴り込まれ、散々説教され、コムロ先生に興味を持った。そんな彼は3年もの間、情報屋と発明家としての腕を磨くために修行をしあの日名前も聞かなかった探偵の前に「ボクを雇って」と姿を現す──。みたいな経緯だったように思います。細かいところ間違えてたらごめんだけど「雇われるために3年修行してた」は合ってるはず。そんなん“““本気”””じゃん!!!そりゃ怒るぜ!?? 途中、確か14日の夜くらいからかな?もうちょっと前?「見たいって言ってたでしょ、僕の本気」に続いてコグレさんが気づく前にコムロ先生が「本気?」って聞き返してハッとしてたの、『鋭すぎる観察眼と推理力』で良い追加でした。

 コムロ先生に自身が使い込んでしまった大金について相談されていたアケチに、マエクラさんが何に使ったのか聞こうとして「知りたければ自分で調べれば?」と言われるシーンがあり、秘密って暴かれるものではなく信頼する相手に打ち明けるものではないのか……などと過ぎったんですが、『秘密主義』のコムロ先生がやろうと思えば『一瞬で調べられる男』を傍に置いている時点でそれは立派な信頼だよなあ。何に使ったかについて調べていたのはお話で出てくる通りですが、その後アケチとコムロ先生の関係が明らかになったときにマエクラさんは1人だけ知っていたような素振りを見せていたので*4完全に「ロクちゃんが望まないことは調べない主義」ではなくなったんだなーと思っていました。コムロ先生はドアを開けて踏み込まれることで失望や落胆されたくないと思っていて、マエクラさんは逆に踏み込むことで嫌われたり嫌がられたりするの怖がっていたのかなーとか。わかんないけど。そこにコムロ先生に遠慮なんてされたことがない、全てを許されている(ように見える)アケチが来てなんだこいつってなっちゃったのかな?という勝手な想像。ドライブレコーダーの映像*5を皆で見たあと、逮捕勾留の決め手になったと聞かされたときのマエクラさんの表情や態度がかなり好きでした。

 

コグレ(演:千田阿紗子さん)

 パピラ。事務所に出入りしている刑事。

 千田さんも初めましてだったんですが素敵だった〜。アニメみたいにくるくる変わる表情がかわいくて面白くて、そして歌声がめちゃくちゃ綺麗。あと声をあげて笑い出したオオバヤシくんに向ける優しい顔がすごく記憶に残っていて、あの表情を思い出すと泣きそうになるし何なら今マジで泣いています。*6OPでコグレさんがオオバヤシくんの車椅子を急に押したときの表情も無償の優しさや愛みたいなものを感じて大好きです。あそこで片足を跳ね上げるのもかわいい。

 コグレさんの「放っておけないのよね」という台詞と言い方が特に好きです。コムロ先生のそういうところを理解して傍にいるんだろうなという感じがして。その信頼が窺い知れる「先生が人を突き落とすようなことする訳ないって思うし」も好きで、これも思い出すと涙が出てくるシーンです。今書いてて思ったけどワダくんが特に心配してなさそうだったのも先生の潔白を信じていたからか。遅。刑事として公正な判断をしなければいけないと悩むコグレさんにワダくんが励ますような言葉をかけない辺り、大人の繋がりって感じが強くて本当に良い関係性だなと思います。関係性と言えば「自覚してください!」からの流れもやっぱり大好き。謝りたくても素直に謝れないコムロ先生にああいう形で赦しと気づきを与えるみたいな。大層な言い方になってしまいましたが。「チョーメイワクゥ」のあとのふんっがワダくんとマエクラさんにねーっ?って言うのに変わってた回があってあれもかわいかったです。ところでコグレさんの髪型*7もオオバヤシくんが花粉研究者*8になったのもその場の勢いらしいのにパピラの形とコグレさんのシルエットが一致したの凄すぎる。アケチが「君がコグレ警部補か。確かにパピラそっくりだ!」って言ったところでオオバヤシくんが全身を大きく早く使ってブン!!!って真顔で頷くのが好きだったんですが配信には入ってなかった。あれ勢い怖すぎる。アケチ、奥の部屋でパピラについてオオバヤシくんに散々聞かされてたんだろうな……というのが垣間見えて良いですよね。ところでいつかの公演の挨拶で千田さんが「あんなに自分の顔が大きく印刷されたのは初めて」「あの布どうするんですか?って皆に聞かれるんですけど公演が終わったら持って帰ろうと思います」というようなことを仰ってたんですが、浅井さんとの配信曰く本当に持ち帰られたらしいです。良かった(?)

 

オオバヤシ(演:泰江和明さん)
 泰江さんのファンで良かったなあ。出演作を観る度にそう思ってるけど今回はこの作品に出会えたことがあって、その気持ちが特に強かったです。こんなに千秋楽が寂しい舞台は久しぶりでした。毎日毎日新鮮に楽しくて、苦しくて、面白くて、ジェットコースターに乗ってるみたいでした。ほんと楽しかったー!!!オオバヤシくんだけ急にめちゃくちゃ長くなるんですが、一番特別で一番好きで一番観ていてそれだけ考えていた時間も長いのでご容赦ください。(?)

 泰江さんは左足を怪我されていると聞いていたのでどう出てくるのか考えていたら車椅子で初見は力技だ!!と思いました。わたしはあんまりショックではなくて、なるほどなーと思っちゃった。でもその怪我が取ってつけたような設定じゃなくてちゃんとお話の最後まで活きるのが面白いし、本当にすごい脚本だなとつくづく感じます。それぞれの登場人物の持つ要素が物語の中でオムニバス的に固まるんじゃなく、点在して絡まっているのであとから繋がっていくのが気持ちいい。初めの方で書いた通りオオバヤシくんは泰江さんの現状が如実に反映されているとのことで、「やりたいことだったはずなんですけど……」と「どんな仕事でも上手くいかないことはあるよ」という台詞が結構ナイフでした(結構ナイフ)。あとオオバヤシくんが母子家庭で、泰江さんも聞くに母子家庭でちょーお母さんっ子(本人談)らしいので「母さん聞いて!」のシーンは重なって仕方がなくて、オオバヤシくんが泰江さんくらいお母さんを大事に思ってたらそんな、しかも病床に臥せっている母親を置いて自殺未遂をしたかもしれないなんて耐えられないのでは……と考えてました。勝手に。そこと発見をしたオオバヤシくんの瞳がキラキラと輝いているのに、顔を上げた瞬間に瞳が翳って、実用化は難しいという判断に至ったシーンに移り変わっているところが好きです。髪と瞼の開き具合で入る光を調整している……。その前の「調査内容オオバヤシ青年について」ははっきり目を開いてるけど内側からの発光はなく、ただ光を反射するガラス玉みたいになっているところも合わせて好きでした。あのコムロ先生と縦に並んでるところ漫画の扉絵っぽくて格好いい。探偵モノみたい!(探偵モノです)

 そういえば「事務所に来ないか、君の身の安全は保証する」と連れて来られたオオバヤシくん、ワダくんが「もしかして誰かに狙われているとか……!?」って口にしたときに3日目くらいからかな?「えっ……?」って神妙に聞き返すようになってて、コイツもしかしてその発想もなかったのにノコノコ病院から出てきたのか!?骨折までしたのに!?!と思ってたんですが(口の悪さイエローカード2枚)、あれって恐らくお母さんが入院して一人暮らし中のオオバヤシくんは「自分が自殺をしないように見張ってくれる人が必要」で、だからコムロ先生について行ったのかもなあ。あの時点でワダくんとマエクラさんとコグレさんにとって転落した原因は事故or事件(不注意or傷害)だけど、オオバヤシくんにとってはもうひとつの可能性があって、それが一番の懸念だっただろうと思うので。オオバヤシくんも一緒に歌ってたから気がつかなかった。いや全然的外れな可能性もありますが。

 ぶっちゃけ記者会見のところでメンソーの社長と吉平がオオバヤシくんをどうしようとしていたのかを洗いざらい喋ったら駄目かなと考えていたんですが、「社長には謝られました」と庇う言葉が出てくる辺りオオバヤシくんの望むところではないのかもなあとも。あとまあ多分流石に(わたしが)野暮。しかし社長にとって自分の弱みを握っているに等しいオオバヤシくんが会社に戻ってくるのは結構恐ろしいのではと思っていたのですが、良く良く考えたら手元に置いておかないと何されるか分かったものじゃなくてそっちの方がよっぽど怖いですね。それなら戻ってきてもらって給与に色つけた方がまだ安心できそうだし(社長はめちゃくちゃ保身的に見えるので……)自分で呼んだのかな。何にせよメンソーで研究を続けることを選んだのはオオバヤシくんで、そこはもう揺るがないと思いますが。

 潜入したワダくんがめちゃくちゃ棒読みなのを聞いたオオバヤシくんがぱかっと口を開けて愕然としていたのがかなり好き。お話のメインではないのでそりゃそうと言えばそうなんですが、ここも配信に入ってなくてちょっと寂しい。そういえばあそこの次のシーンでコグレさんとワダくんがスーツカバー?をバサバサやって見せつけてるのも好きです。かわいい。役に入ったときの、感情が滲み出るどころか感情そのものがそのまま表れているみたいな泰江さんの歌声がすごく好きで、作戦が成功したあとの気まぐれな風があんまり晴れやかなのでそれに胸が打たれて泣きました。今思い出したから唐突に書くんですが(メチャクチャ)コムロ先生が薬を飲むのを皆で見守ってから歌い出す、あの空気感も好きで毎回更に泣いてたなあ。素敵な作品だほんと。

 あとこれはどうでもいいんですが初日もっと元気そうに動く泰江さんを見て泣いちゃうかなと思っていたら、泣いたは泣いたけどオオバヤシくんのかわいさに脳が破壊されて帰ってきたのが忘れられません。しゅごいでしょ!?を当て書きされる29歳男性実は肩幅広め。←これ台本ではすごいでしょ!?だったところが稽古中に噛んじゃってそうなったらしいです。*9いやそっちの方が何なんだ。ざーっつらい♫で明らかに今かわいいと思った人の声が客席から上がるのが面白かったです。でもあれはかわいい。しかしあれだけ凄さを皆に分かって欲しがってた花粉のことを憎むようになってしまったの、面白いけどやっぱりちょっと切なかった。「花粉をこの世から〜」のシーンの表情シンプル獰猛だし。追記ですが浅井さんと千田さんの配信で浅井さんが「(オオバヤシくんは)パピラのことはそれでもかわいいと思ってると思う」って言ってくださっててなんだか嬉しかったです。花粉自体はまあともかくあんなにキラキラ楽しそうに語ってくれたパピラを嫌いになっちゃったんだとしたら悲しかったので……。

 その配信でさせて頂いたこちらの質問なんですが(名前が読みにくくてすみません)、これ「(最終稿での)オオバヤシくんにとって、この世から花粉が消えてしまうのは“嫌なこと”ではないのかな?」という意味でした。浅井さんのノートは拝読していたので元々原案からの流れだったということは理解していたのですが、言葉が足りなかった。でもまあ花粉症が製薬会社とのマッチポンプ説である置いておいても*10日本全土のスギ花粉が殲滅されることは恐らくないだろうし、莫大な利益が生じる発見なのを理解してそっちをとりあえず優先したのかな。あ。わたしは観ながらずっとオオバヤシくんはこんなに好きなパピラの観測が新たにできなくなってもいいのかな?という疑問があったんですが、今書いていてそれってすごく「俳優のオタク」的な視点なのかもしれないなと思いました。研究者の視点で見ればまた違う感覚があるのかも。

 コムロ先生が破ろうとしていた吉平の名刺をオオバヤシくんが手にして破る、というシーンがあって、恐らくベースはコムロ先生に車椅子で近づいてひったくり千切るというものだったのですが、ここも毎公演細かく違ってその瞬間に産まれた情動のまま動いている様がオオバヤシくんの生をリアルに感じられて好きでした。Side by Sideはキャストの方みんなそうで、観ている内に覚えたセリフの聞こえ方も感じ方もその公演によって全然違って、それがセッションみたいで楽しかったんですが。手を伸ばしてコムロ先生が名刺を渡してくれるまで待ったり(その日下手だったので先生の表情は見えなかったんですが、そこですぐ渡さないで逡巡する素振りを見せていたのも良かった)、動く前に「待って」って周りに聞こえるか聞こえないか分からないくらい小さな声でか細く呟いたり、配信であったように車椅子から立ったり(ワダくんが驚きながらオオバヤシくんの体を支えてくれるの大好きです)、特に千秋楽で破ろうとしたコムロ先生の手に手を重ねて一緒に破ったのが一番心に来ました。

 ごめんあとこれだけ言わせて!!記者会見が終わってアケチとコムロ先生の回想に入る前のオオバヤシくんの、抜け落ちた記憶──って歌い出すときの表情や歌声に苦しそう、というか苦しい感情そのものを差し出されているような感覚があって、後半はずっと胸が押し潰されそうになって逆に涙も出てこなかったです。確か16日から歌う前にオオバヤシくんが慟哭するようになっていたんですが(配信の17夜は何度も左膝を叩きつけていてそれもしんどかった)、そうでなくても歌に入れない日に演奏のはんださんがそれを待ってくださっているのが分かって、それって生演奏ならではのことだし、あの瞬間みんなでオオバヤシくんという人間の表現をしてくれていたんだ……みたいな感慨がありました。*11コムロ先生のどこかのシーンでも似たようなことがあって、演奏のことは全然わからないんですがはんださんが役者さんに息を合わせるのもお上手なのだろうなと思います。最後はんださんの話になった。

 

アケチ(演:佐々木崇さん)

 アケT。脳と心のお医者さん。

 佐々木さんは某ショーと新テニミュシリーズ、リビングルームミュージカル、わたしの幸せな結婚で拝見しています。泰江さんと3連続共演で嬉しい。今回もすごく楽しみでした。佐々木さんを拝見した中で一番鮮烈な記憶はやっぱり新テニミュsecondの鬼VS平等院と、リビングルームミュージカルでそんな鬼を演じた岡本さんが歌い、佐々木さんが踊った『エリザベート』の「最後のダンス」です。しなやかに蠢く手足がまるで追い立てるようで、ただただ圧巻でした。あんな目も口も開きっぱなしで1曲聞く(見る)経験って滅多にない。2年前の夏のことですが、結構な頻度で思い出します。

 アケチと言ったらカメラアイ、というくらい大切な設定ですが、かつてその能力のことでコムロ先生に救われたアケチがその能力でコムロ先生(と皆)を救う構図になるの、良すぎる〜〜ッッ あの手帳を拾い上げて記憶するまでの流れ、格好良すぎますよね……。そういえばアケチのスタイル(劇中では「スタンス」と言われていましたが)について言及するようなシーンがありましたが、手帳をファントム20より早く拾えたり人より速く走れそうだったり、そういう佐々木さんならでは、みたいなものがあるとなんと言うか視覚からのリアリティみたいなものが増して、よりキャラクターたちの実存性が感じられる気がします。大丈夫?この感想は時代に逆行してないですか?俳優さんが演じていたキャラクターをキャスト変更することなく、消すでもなく、物語のそれもかなり重要な部分にその存在を関わらせているあたりにもわたしはその実存性を強く感じていて。普通舞台って千秋楽が終わったら全部が幻みたいに消えてしまうのに、まだどこかの世界で生活をしているような、そんな感覚が彼らにはあります。それが嬉しくて愛しい。

 アケチとオオバヤシくんの「君を引き抜いてくれた恩人が企業価値を優先して君を切ることを提案した?なんか矛盾してる」「それがビジネスなんですよ」というやり取りや、「でもオオバヤシくんは進言してたんだよ!?」で結構子どもっぽいことを言うんだなとちょっと意外でした。最初の怪しさからもう少しシビアな人に見えていたので。でも藤原さんFC『ふじけあそなが』の佐々木さんゲスト回配信を視聴して、アケチはとにかく優しいので利己的な人があんまり理解できないのかな〜という印象に。そりゃ脳科学の道にずるずる進むし電話の相手に「大丈夫ですよ、もう大人なんで」と言わされるくらい心配されるかもしれない……。お兄ちゃんちょっと10年も会ってなくて大丈夫ですか?他人の悪意に鈍感というか善性を信じすぎてはいないか?そうやって自分を守ってきたのか?(論理の飛躍) と言ってもなんだかんだ周りにかわいがられてやってそうだけど。電話の相手もその筆頭なのかも。愛され兄弟たち……。最初どうも〜!怪しいで〜す!みたいな感じで出てきたアケチの挙動が全部お兄ちゃんの現状とその周囲に興味津々な弟ムーブだったのがかわいい。後日談で本を読むコムロ先生の後ろにいるアケチが早くページめくってよーみたいな感じで急かし、コムロ先生が鬱陶しそうに眉を顰めながら無視する、というのを隅にあるデスクでやっていたのもかわいかったです。

 そしてやっぱり『水の記憶』という曲。途中ロクちゃんことコムロ先生への悪口をつらつらと並べるアケチの歌声と表情から滲み出るコムロ先生への愛情があまりにも優しく伝わってきて、毎公演心が揺さぶられて泣いてしまうシーンのひとつでした。ここの直前が個人的に今作品で最も摩耗するオオバヤシくんのシーンなのですが、(ただ見てるだけなのに)心身ともに全力疾走したあとのような状態の中でもアケチが記憶に引き込んでくれるので、しっかりアケチやコムロ先生とその関係について思いを馳せることができて良かったです。それでも入りの虫の声みたいなのが聞こえる度にあと2分待って!と思ってたけど。忘れたくても忘れられない『アケチのソロ曲』が「俺は全部覚えてる」という歌詞で終わるのも美しいですよね。きっとアケチにとってコムロ先生からのあの「逃げればいい」って言葉って本当に特別で、留置場での「俺は全部覚えてる。あの日ロクちゃんが差し出してくれた、傘の柄まで」って物語上での役割は伏線かと思いますが、アケチ自身はきっと今更コムロ先生に対して記憶力の良さを誇りたくて言ったわけじゃなくて。“全部覚えてしまう”アケチの、“覚えたくて覚えている記憶”なんだろうなと感じました。取り出したい記憶と言うか。

 あと彼の人物像として、足が他人より速いことを優位に感じない人なんだなあというのをハンデ云々の話を聞きながら考えていました。カメラアイのせいで「出る杭は打たれる」を経験してしまったせいなのかなとも思ったり。日本から出て良かったね……。ラストの「うわーっ!グレコちゃん今のカッコいいもう1回やって!」ってはしゃぎながら真似してるアケチが好きです。かわいい。

 

 脚本についてこちらXでポストしたのとほぼ同じ文ですが、シリーズ物にも関わらず例えば最初にアケチが本を手にして「コムロ探偵事務所エピソードゼロ」と口にする→その後改めて「エピソードゼロが小説である」ということをマエクラとワダの会話で示す→アケチが「エピソードゼロを見た」と言う部分など、 違和感を持つタイミングがシリーズ初見とそれまでの作品を見ている人でズレが生じないように上手く調整されているのでかなり見やすかったです。そういう仕掛けが散りばめられつつお話はしっかりと且つコミカルに展開していくのがすごい。観ていてあそこはどうなったんだろう?この人さっきと言ってること違わない?みたいな引っかかりが全くなく、最後に畳み掛けるように伏線が次々に解消されていくのが気持ち良かったです。浅井さんと千田さんの同時視聴配信を拝見していたとき浅井さんがここ好き!ってたくさん仰ってて、そのツボが全部同じなのでだからこんなに良い作品なんだな〜!って嬉しくなりました。作り手の好きがいっぱい詰まってる作品は最高!

 楽しくて面白くて優しくて、帰ったあとでも思い返すと自然と笑顔になる、そんな舞台でした。このタイミングで観られたことに大きな意味と喜びを感じています。数公演だけあったアフターライブでは3曲披露してくださり、3曲目だけ動画撮影可能でした。これが後生に残らないのは勿体なさすぎる!!と思っていたのでDVDに収録されることになって嬉し〜。DVDも楽しみです。

こちらその3曲目の様子。確かこの回H列のセンターでめちゃくちゃ見やすかったです。動画見たら泣けてきてしまった。コムロ探偵事務所の皆に会いたい。本当にいとしい人たちです。どうかまた会えますように、希望と期待を込めて。

*1:実際は庄兵衛の台詞ではなく森鴎外のエッセイからの引用だったはず

*2:超良い意味です

*3:ここ割と毎日言い回しが細かく違ってて「そう思ってた」の日もありました

*4:「知ってました!?」って聞かれたときも「知ってた」って言ってたはず

*5:ところで車の持ち主がいない問題はどうなってたんだろう

*6:わたしの涙腺は蛇口です

*7:https://x.com/sayachin_asai/status/1760102515100750130?s=20

*8:https://x.com/sayachin_asai/status/1759364351323234306?s=20、1枚目ALTより

*9:泰江和明FC LIVE配信#8より

*10:わたしは花粉症じゃないのであんまり詳しくないんですが

*11:普段からそうなんだろうけど照明さんや音響さんは見えないので